創業塾の活性化事例

 

 国内の創業が少ないことは以前から指摘されていますが、その対策の一環として全国で創業塾が数多く開催されています。私もある地域の商工会議所が主催する創業塾で7年間講師を担当しているのですが、我ながら、数多くある創業塾のうち、これほど成功している塾は見たことがありません。
 今年度、受講者管理システムを構築・運営し、更に大きく発展を遂げている当該創業塾の事例について報告します。

創業塾受講者のイメージ

1.創業塾

(1)一般的な創業塾

 創業塾と言われるものは数多くありますが、例えば主催者によって、①地区町村、②市区町村の商工会議所・商工会、③金融機関、④その他に分類されます。
 目的は創業を支援することですので、経営に必要な事業戦略やマーケティング、財務、労務などについて講義することが中心になります。回数は数回~6回程度、夕方もしくは土日に開催するものなど様々です。講師は、中小企業診断士や税理士、民間の教育機関の方などです。
 公的機関(市区町村や商工会議所など)が主催するものは、機関が費用の多くを負担していますので、無料もしくはかなり抑えられた参加費で受講できます。多くの場合、公的機関による創業塾は、「特定創業支援等事業」として認定されており、例えば、卒塾者には、小規模持続化補助金の「創業枠」(一般枠に比べ、補助上限額が大幅に増額されます)での応募が可能です。

(2) 担当している創業塾

 私が講師を担当している創業塾は、市の委託を受け、商工会議所が主催しているものす。市では2つの創業塾を開催しており、1つは「女性向け創業スクール」で参加しやすさを、もう1つは私が講師を担当している「創業塾 実践講座」で具体的開業を目指したものです。よって、それなりに棲み分けされています。
 「創業塾 実践講座」は、土曜日開催で全6回とたっぷり時間を確保しており、講師は地元の中小企業診断士・税理士・社会保険労務士・行政書士など、毎回、地元の専門家8名程度が対応にあたっています。
 内容ですが、前述した経営に関する基礎の他、ビジネスモデル策定演習やフレームワークを使った事業要素の整理、実店舗見学、計画書策定ワーク&個別相談、事業計画プレゼンテーションなどを加え、事業計画書作成に向けたカリキュラムが非常に充実しています。
 これまで私は4か所の創業塾で講師側の立場で参加していますが、聞き及んでいるものも含めて、これほど質の高い創業塾は見たことがありません。

2. 事業における問題と対策

 今では類を見ないほど充実した内容ですが、開始当初から上手くいっていたわけではありません。会議所の担当者と講師陣による議論を繰り返し、紆余曲折を経て、以下の様に発展してきました。

(1)外部業者による創業塾

 開始当初、当該商工会議所ではノウハウを保有しておらず、研修業者に委託していたそうです。6日間コースの後半に一度だけ支援する機会がありましたが、申込者15名程度のうち、その日の参加者は約半分、2班に分かれた議論はとても低調で、助言を受け付けない雰囲気がありました。

(2)地元専門家による講師

 上記の状況を見かねて、私は会議所に「事業計画策定とディスカッション」に主眼を置いてワーク中心に組み立てることを提案しました。
 講師陣は、会議所の会員でもある地元の診断士・税理士ら5名が中心となり、講義内容も講師陣で議論しながら決めることになりました。そして、講師陣はディスカッションに積極的に加わり、毎回、個別相談にも応じる体制を採ることになりました。
 これが功を奏したようで、塾自体が見事に活性化しました。創業を想定している事業について自ら話す機会が大幅に増加したことで、受講者の交流も進み、アンケート調査による満足度は急上昇、申込者も多くなりました。その後、個別の指導が行き届かなくなるため、定員を減らすなどして充実度した塾を維持しています。

(3)専門家増員と受講者進捗管理のシステム化

 開催している市は人口増加が続く非常に発展している地域で、専門家の会議所会員も増加したところで、講師陣の増員が可能となりました。会議所職員と講師陣の議論の結果、更なる充実を図るべく、受講料を値上げして意欲ある受講者の参加を促し、今年度から講師陣が増員されました。これにより、受講者20数名に対し、講師が毎回の8人程度支援にあたり、存分に相談できる充実した体制になりました。
 また、運営に余裕が生まれましたので、講師陣で受講者の「事業計画書」作成状況と助言内容を講師陣で共有する仕組み(下図)を構築し、全6回のうち、後半の3回で運用しました。集計の結果、事業計画書に着手できていない受講者が意外に多いことが分かり、来年度に向けて改善案が検討されています。

管理シートイメージ

3.担当する創業塾の課題

 これまで、大きく発展してきた創業塾ですが、課題も勿論あります。
 1つ目は、専門家の負担です。自身の講義がある日を除き必須ではありませんが、講師陣は毎回の参加が原則で、反省会や次回に向けた企画会議への参加も求められます。
 加えて、今回は、受講者管理の仕組みについて、発案者の都合がつかず会議所のITリテラシにも課題があったため、私が開発・運用を引き取り、アクセス権やユーザサポートなど数10時間を費やしました。
 参加開始当初の私も含め、登録間もない診断士にとっては経験を積む機会として有効かも知れませんが、継続的な運用は難しくなるでしょう。
 2つ目は、講師陣の世代交代です。すでに主要な講師の担当機関はすでに5~8年になっており、コンテンツは毎回アップデートしていますが、新鮮味は薄れています。今年度から新たな講師も加わっていますが、講義の中心は古株のままです。
 いずれの課題も運営次第ですが、会議所職員と地元専門家で議論しながら解決してゆくしかありません。

4.まとめ

 今回は、非常に成功している創業塾について紹介しました。私の講義を聴講した受講者は、数100名おり、また、創業に関する相談は数10件受けていますが、当該創業塾の運営に大きく貢献できていると自負しています。
 これらの経験や仕組みは、創業塾はもとより、企業研修にも部分的に活用できるノウハウとなっています。

 ご興味のある方は、こちらからお願いします。

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