“DX”に関する誤解~業務効率化とビジネス変革の違い
中小企業のDXについて論じる際に、気になることがあります。
今回では、中小企業におけるDXの認識について議論します。
1.デジタル化の分類
経産省「DXレポート2」では、デジタル化の状況に応じて、「デジタイゼーション(Digitization)」、「デジタライゼーション(Digitalization)」、「デジタルトランスフォーメーション(DX: Digital Transformation)」という3つの言葉が使われていました。(下図)
(1) デジタイゼーション(Digitization):データをデジタル化すること
デジタイゼーションとは、アナログ情報をデジタルデータに変換するプロセスのことです。情報の保存や取り扱いがしやすくなりますが、業務の進め方自体には大きな影響を与えません。
例えば、紙の伝票をPDFにして保存するようにしたり、Excel形式で記載するようにしたりすることが考えられます。
多くの場合、業務の手順や役割が大きく変わることは、ありません。
(2) デジタライゼーション(Digitalization):業務をデジタル技術で効率化すること
デジタライゼーションは、デジタイゼーションで得たデジタルデータを活用して、業務を効率化することです。業務フローの最適化や自動化が含まれます。
例えば、書類を持ち回り承認欄に押印を求める仕組みを、ワークフローシステムを導入して電子決済するようにすることが考えられます。この場合、物理的に書類を移動させる手間が省け、ハンコを管理する必要もなくなるので、業務効率の向上が期待できます。
このように業務プロセスを改善することをBPR(Business Process Re-engineering)とも表現します。
(3) デジタルトランスフォーメーション(DX: Digital Transformation):ビジネス全体を変革すること
DXとは、デジタル技術を活用して、企業のビジネスモデルそのものを変革することです。ただの業務効率化ではなく、新しい価値を生み出し、競争優位性を高めることが目的になります。
例えば、NetflixがDVDレンタルからストリーミングサービスへ移行して、店舗によるレンタルサービスからデータセンタによる月額配信サービスにビジネスモデルを変化させて高収益化を果たしたことが挙げられます。
ビジネスモデル変革の背景には、前回のコラムでも記した通り、高速で安定したインターネット環境が整った点が大きいと考えますが、既存の地上波TVやDVDレンタル事業は少なからず市場を奪われているように思えます。
2.中小企業における留意点
数年前からDXという言葉をよく聞くようになりましたが、本来の意味ではなく、デジタル化の活動そのものを指す場合が少なくありません。
中小企業経営で気をつける点をいくつか挙げます。
(1)補助金の”DX”の扱い
補助金によっては、前述した分類を意識する必要があります。
ある補助金の募集要項を見ると、BPRとDXを区別して記載されていました。
つまり、業務プロセス改革を行うIT活用をDXと称して記載すると、要件を満たさず採択に至らない可能性があります。
(2)公的支援の”DX”の扱い
中小企業向けの公的支援で、”DX”を謳った支援メニューが多数ありますが、その多くはデジタル化の意味で使われています。そもそも、DXに真摯に向き合う中小企業がそう多いとは考えにくく、公的支援で募集して予定数が集まるか疑問です。
事業規模が小さくともビジネスモデル変革に関わる、経営にインパクトがあるものかは、申し込む企業も支援する公的機関もよく意識して欲しいものです。それを見越してのことか、ITの専門家と称する方々でも、本来のDXを理解していないか支援するスキルが十分でない方も多くいらっしゃるように思えます。
3.まとめ
中小企業でもビジネスモデルを変革して更なる成長を図る場合もありますが、先ずはデジタイゼーションやBPRを検討することも1つの方法です。それでも課題が解決せず、広範囲にビジネスを再検討する必要な場合、例えば、AIを使って自社が生み出す付加価値の源泉そのものを変化させてしまうような場合は、胸を張って「DXを検討します」と表現して欲しいものです。
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