デジタル庁の動向と組織マネジメント

行政のIT化を強力に促進する仕組みとしてデジタル庁が発足し、8か月が経ちました。
しかし、初代デジタル監(実行上のトップ)が交代し、また、民間出身者から不満が出ているなど、運営上の問題が報道されています。

1.デジタル庁の期待と報道されている問題

(1)報道されている状況

 発足時のデジタル庁は、下記の様な組織体制で、職員約600人のうち、民間出身者は約200人が起用されました。事実上のトップであるデジタル監も民間から採用され、各省庁が「縦割り」で開発・運用されているITシステムに「横串を通す」ものとして期待されています。
 ところが、民間出身のデジタル監が退任し、民間出身の職員から「会議が多すぎる」「同じような書類を何度も作っている」と不満が出ており、 年度末には10人近く一斉に退職したと報道されています。

デジタル庁の体制

(2)想像される問題

 民間出身者を除く2/3の職員は、複数の省庁からの出向者です。すなわち、その方々は出身省庁への報告を求められるのですが、元々、ITシステム開発経験がある訳でもなく、積極的に動けるとは限りません。従って、十分な貢献ができないまま、周囲の状況を把握して報告することが多くなると想像できます。
 また、リーダーは、縦割りが指摘される複数省庁と対峙しながら、その省庁からの出向者を束ねて機能させるのは並大抵のことではないでしょう。初代デジタル監の方は、経営学博士で会社役員をいくつも経験されているので、上手くマネジメント出来ると期待されていたのですが、さすがに民間の比ではなかったかも知れません。

2.企業内の類似ケース

 こうした組織マネジメントの問題は、企業内でも良くあります。
 私の経験から、その例をお話します。

(1)組織横断プロジェクト

 1つは「組織横断プロジェクト」で、複数部門からメンバが集められてグループが発足するケースです。私もメーカに勤めていたときに、2つの事業部が共同して実施するプロジェクトに参加したことがありましたが、プロジェクトと出身事業部の両方の上司に報告していました。そして、十分に稼働する間もなく、半年で一方の事業部にプロジェクトは集約され、出身事業部に復帰しました。
 その後、主導権を失った事業部にも技術やノウハウは蓄積され、上層部の判断により、両事業部から分かれた新たな事業部が発足し、その事業は大きく成長するはずでした。その後も、別な事業部で類似分野の事業化を図って上手くゆかないなど、組織マネジメントの問題は続きました。そうしているうちに、海外メーカに市場を席捲され、事業は大きく成長することなく、事業化に貢献した優秀な人材が多く流出するに至っています。

(2)開発プロジェクト

 情報システムの開発では、相応の技術スキルが要求されます。しかし、開発規模が大きくなれば、必要な人材リソースも多くなり、担当者の実力も一定とは限らず、予定通りに進捗しないケースは少なくありません。
 こうした場合、リーダーが期待するのは優秀な人材であり、その方々に負荷が集中する傾向が出やすくなります。そして、業務に責任感をもった優秀な方ほど、無理をして責任を果たそうとします。マネジメントを誤ると、優秀な担当者が体調を崩してしまうこともあり、その結果、最悪のケースに至ってしまったケースも見てきました。

3.対応のポイント

 人こうした状況を打開するには、優れた人材を確保する以外に、組織マネジメントが重要になってきます。

(1)体制

 期待される成果を上げるには、優秀な社員を的確にマネジメントする必要があります。プロジェクトメンバの指示形態が複数ある状態は当然避けるべきで、ましてや報告を複数の上司に上げることなど非効率なだけでなく、モチベーションにも大きく影響します。
 優秀な人材の取り合いはよくあることですが、重要なプロジェクトであれば、的確な人的リソースを絞り込んでアサインし、その方々は専任とするくらいの体制を組むべきでしょう。

(2)リーダーシップ

 専任の人材が揃ったとしても、出向者による人材はいずれ出向元に復帰するので、出身組織に報告を挙げることを期待されるかも知れません。それで業務の進捗がよくないとしたらプロジェクトのリーダーはどうすべきでしょう。
 プロジェクトリーダーは実行責任を持つので、何としても”動く体制”にしなければなりません。例えば、優秀な人材と目的を共有してモチベーションを高めるために「このプロジェクトは全社的に重要なプロジェクトです。私が責任を持つので、出向元の指示は無視してください」くらいのことは指示してよいかも知れません。
 もちろん、こうした場面でプロジェクトリーダーの覚悟や実力が問われます。

4.まとめ

 デジタル庁の体制が、各省庁からの出向者が半数以上を占めるという状況下で、民間から招聘されたデジタル監がマネジメントするのは至難の業だったことは、容易に想像できます。
 規模の差こそあれ、自社のデジタル化を全社的に進めるプロジェクトの成功には、経営者が的確なリーダーシップを採ることが必須です。その覚悟なしに指示される経営者も少なくないようですが、この点は、是非、ご理解いただきたいものです。

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