国内企業の生産性と中小企業のIT化推進

 日本生産性本部の「労働生産性の国際比較 2021」によれば「日本の一人当たり労働生産性は、OECD加盟38カ国中28位」。
 何度聞いてもショッキングな数値ですが、正面から受け止めねばなりません。
 最も大きな要因の1つはデジタル化の遅れですが、改めて、現状を整理してみます。

日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2021」より引用加工

1.現状の把握

 労働生産性が伸びない状況は、社会人として活躍されてきた方々は肌身で感じていると思います。考えられる要因は、既得権益に囚われて改善できない社会システム、旧態依然とした企業内組織文化、一括採用・年功序列・ジェネラリスト育成型の人事制度など根深い問題ばかりです。
 それらに正面から取り組むことを避けてきた結果、下図のように、デジタル化の課題は明らかに顕在化しています。

デジタル化の遅れが顕在化した例

2.中小企業でデジタル化が遅れている要因

 「当社の事業ではデジタル化推進は難しい」とおっしゃる中小企業の経営者は多いです。聞けば、これまでのやり方を変えられない、導入するための人材がいないと本質的でない理由を挙げる方もいらっしゃいます。そうしているうちに、生産性が上がらず競争力が低下してしまいます。
 私が伺った例に、以下のような状況があります。

(1) システムを導入したが使いこなせない

 製造業で、製造工程や在庫数量、受注・販売などを全社で統合管理する生産管理システムがあります。製造部門や営業部門などで一元管理されたシステムでリアルタイムに動作しますので、製造工程の生産性向上や営業部門の納期把握・原材料発注の円滑化などで効果があります。
 ところが、最も導入効果が得られる製造部門で、従来からの生産計画方法に固執し、各生産工程のデータを設定できなければどうなるでしょうか。生産性向上はもちろん、営業部門などの納期把握も正確性を確保できません。
 そこで、すでに導入している生産管理システムに、生産計画を恐らく1/3程度の時間で行うことができる生産計画システムを追加することで、全部門で生産性を向上させる方向で検討を進めました。
 しかし、最後まで製造部門が反対し、導入に至りませんでした。本来であれば、社長のリーダーシップが必須ですが、理解が得られなかったようです。結局のところ、生産管理システムの機能は十分に発揮されないまま、生産管理システムは従来通り営業部門・経理部門のみで利用しており、本来の機能は発揮されないままです。

(2) 基幹システムを導入したがベンダの支援が足りない

 企業であれば、人・モノ・金・情報と多くのリソースを抱えて事業を行っています。それらを出来るだけ1つのシステムで統合管理するのがERP(Enterprise Resources Planning)システムの考え方です。例えば、会計や販売管理、在庫情報などを連動して動作しますので全社で最適化しやすくなります。また、1つのシステムで管理できれば情報システム部門の負荷も少なくできます。
 一方、ERPには多くの機能が含まれていますし、自社の業務プロセスに合わせたカスタマイズを行った場合、システムは肥大化し、ベンダ側の保守も相応の負荷がかかります。中小企業でERPを導入する場合、カスタマイズを多く実施すると、実質的な専用システムとなります。ベンダから見れば、何年もの間、保守で多くの工数を確保し続けることは売上の上では必ずしも好ましい状況ではなく、保守サービスレベルが低下する場合があります。
 しかし、大規模なシステム開発投資を行い、情報システム担当も最小限に絞り込んでいる中小企業からすれば、更新時期まで他のベンダに乗り換えることができず、甘んじて現用のERPを使い続けることしかできません。いわゆるベンダーロックインの状況です。

3.対応方法

 前述したような状況に陥ることなく、中小企業でデジタル化を円滑に進めるにはどうしたら良いのでしょうか。
 業務のプロセスを最も理解しているのは企業ですので、システムをどのように適用させるのが良いか最も適切に判断できるのは内部の担当者です。一般に、中小企業にはIT人材が不足していると言われていますが、システムベンダに丸投げするのはリスクが大きすぎます。
 業務システムは企業活動の根幹に関わりますので、結局のところ、雇用するか、育成するかで自社で基本的な要件を明確化する程度の人材は確保し、トップのリーダーシップによって組織的なデジタル化を強力に進めていく以外ないのではないでしょうか。

4.まとめ

 情報システムの活用は中小企業においても避けられない課題となっています。情報システム担当者を配置していたとしても、基本的IT技術を理解した上、最新スキルにアップデートしていくことが重要です。
 中小企業であっても、こうした体制の構築を視野に、デジタル化を推進することを検討してみてはいかがでしょう。

 当事務所では、情報システム部門のアドバイザを複数社務めており、本気でデジタル化をお考えの中小企業を支援しています。
ご興味のある方は、こちらからお願いします。

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