中小企業のITシステム開発方式

 事業を進めるうえで、ITシステムの構築は避けて通れなくなりました。かつては数千万円規模の大規模システムをベンダに一括発注するケースが中心でしたが、近年は、中小企業でも「小さく作って素早く試す」ことが現実的な選択肢となっています。その前提として、開発方式の違いを整理しておくことは、経営者や現場責任者にとって重要な視点です。

Vibe Codingイメージ

1.ウォーターフロー開発

 従来型の「ウォーターフォール開発」は、「要件定義-基本設計-詳細設計-コーディング-テスト」と工程を段階的に進める方式です。銀行システムや基幹業務の全面刷新のように、長期的に安定稼働を求められる大規模案件では、今でも有効なアプローチです。
 もっとも、昔のように工程ごとに分厚い設計書を作り、何度もレビューを重ねるスタイルは、中小企業のスピード感には合いにくくなっています。現場での要望変更が出るたびに上位の要件定義書・設計書を修正し、整合性を保ち続けるのは現実には難しく、ドキュメントが実態と乖離してしまうこともしばしばです。
 それでも、「最初に全体像を描き、影響範囲を見ながら慎重に作る」という考え方自体は、今も大規模開発では欠かせません

2.アジャイル開発

 一方で「アジャイル開発」は、小さな機能を短いサイクルで作っては確認し、全体を育てていく方式です。仕様を最初から厳密に決め切るよりも、まず動くものを作り、発注側と開発側が同じ方向を見ながら修正・追加を重ねていくことを重視します。既に稼働しているシステムに対して機能追加を繰り返すフェーズでは、とりわけ相性がよい手法です。
 典型的には、自社エンジニアとSESで派遣されたエンジニアが同じ場所に集まり、日々相談しながら開発を進めるスタイルがイメージしやすいでしょう。逆に、「要件はその都度メールで投げるので、あとはよろしく」といった丸投げに近い進め方で、後から齟齬が噴き出して遅延するケースもよく見かけますが、これはアジャイルとは言えません。アジャイルは「場当たり的」ではなく、「頻繁な対話とフィードバック」によって品質を高める手法だという点を誤解しないことが重要です。

3.AIコーディング

(1)「Vibe Coding」

 ここ数年で急速に存在感を増しているのが、生成AIを活用したコーディングです。自然言語でAIに指示してコードを書かせる、いわゆる「Vibe Coding」により、ソフトウェア開発の生産性を大幅に高める取り組みが現実味を帯びてきました。単独で動作する小さなプログラムであれば、AIが生成したコードに対して自動テストも行えますので、ある程度の品質はすぐに確認できます。
 たとえば、ExcelのVBAやGoogle Apps Scriptを使ったちょっとした業務改善ツールであれば、担当者自身がAIに相談しながらプロトタイプを作ることも十分可能です。うまく使いこなせば、事務担当者のノウハウをそのまま「IT化」する新しい手段にもなります。

(2)仕様駆動開発

 さらに、最近はコードだけでなく設計書までAIで生成・更新するツールも登場しています。長年、「仕様書が更新されず、現場はコードを読まないと分からない」という状態をたくさん見てきましたが、コードと仕様書が自動的に同期された状態を保てるのであれば、これは開発プロセス上の大きなブレイクスルーと言えます。
 ただし、最終的な責任はあくまで人間側にあります。AIが出してきたものを鵜呑みにせず、レビューとテストの体制をどう組むかが、中小企業にとっての実務的な課題となるでしょう。

4.まとめ

 これまで中小企業では、IT活用といえば「ノーコードツールで簡単にアプリを作る」「クラウドサービスをそのまま使う」といった選択肢が中心でした。これに対し、AIを活用したコーディングや仕様書作成が組み合わさることで、「自社の業務にきちんとフィットした小さなツールを、手頃なコストで作る」道が現実的になってきています
 ウォーターフォール、アジャイル、AIコーディング。それぞれに得意・不得意があり、どれか一つに決める必要はありません。重要なのは、事業の規模やリスク、社内のITリテラシーに応じて、これらをどう組み合わせるかです。経営者が開発方式の特徴を理解し、自社にとって現実的なスタイルを選び取ることが、中小企業のIT投資の成果を大きく左右していく時代になっています。

 ご興味がございましたら、こちらからお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)