中小企業のAI活用
「AI」という言葉を聞かない日はないくらいに社会に浸透してきました。当然のことながら中小企業の経営にも少なからず影響することが考えられます。
今回は、中小企業のAI活用について考えます。
1.AIの普及動向
(1) 生成AIと話題
ここ1年でAIに関する最も大きな話題は、生成AIが普及したことでしょう。
一般的なチャットサービスに入力するときと同様に、プロンプトと呼ばれる枠に質問文を入力すると、インターネット上に掲載されている膨大なデータを学習したAIが、文章や画像で回答します。
文章を作成するのが”生成AI”であり、相応に自然な表現になっている点が単純な定型回答と大きく異なります。個々の単語は大量のパラメータによるベクトル表現がなされ、より適切な表現となる確率が高い単語を選択しています。
文章の分析も相当な情報量を処理をしており、単語ごとに周辺との関連を分析して確率の高い意味の言葉として扱います。このモデルが、大規模言語モデル(Large Language Models、LLM)です。
これらの処理能力を支えているのが並列計算を得意とするGPUで、更にAIのアルゴリズムに合わせた構造のGPUもリリースされて、音声をリアルタイムに分析・生成、つまり、自然な会話が可能になる例も出始めています。
(2) AI研究の歴史
人工知能研究は、1950年代後半から3度のAIブームを経て、ようやく実用・普及してきました。当初2度のAIブームは、単純な課題にしか対応できなかったり(トイプロブレム)、膨大な専門家知識の入力が必要であったり(エキスパートシステム)と実用や普及に至りませんでした。3度目のブーム(現在)は、処理アルゴリズムが大きく進化したことに加えて、①Internet上の膨大なデータを扱えるようになったこと、②GPU等のデバイスにより処理能力が格段に向上し、複雑な深層学習ができるようになったことで、応用範囲が格段に広がりました。
IoTによるオリジナルデータの収集が可能になったことで、更に活用の範囲が広がりました。例えば、映像やセンサのデータをAIで処理することで自動運転が考えられますが、目前の課題である運送業界のドライバー不足を緩和できる可能性があります。
(3) 普及の課題
AIにより文章や画像・映像を生成することができるようになりましたが、インターネットに公開されている画像・映像を自由に利用して良いとは限りません。いわゆる偽動画の被害も多く報告されており、不適切なデータの削除も行き届いていないのが現状です。また、著作権の扱いも法整備が追い付いておらず、各国で議論されているところです。
企業内での利用を考えた場合、社内の営業機密にあたるデータを参照させてAIに回答させる技術にRAG(Retrieval-Augmented Generation)があります。インターネット上の膨大なデータに加えて企業特有の情報を加えことができ、理に適った方法ではありますが、情報セキュリティの面からは注意は必要です。「ChatGPT」でも、プロンプトの履歴を残さず、学習にも利用されない選択ができる設定が追加されていますが、誤操作も考えられますし、心配はつきません。
2. 中小企業におけるAI活用
(1) 工場の外観検査
工場の製品検査でAIによる画像検査を拝見したことがあります。
一部の汚れやキズを検知する際に、目視していたものを自動的に分類する仕組みで、金属部品を検査装置にセットすれば即座に良品/不良品を識別・仕分けします。人が行うより精度が高く時間もかかりませんので、明らかな効果が期待できます。
「写真撮影とAIによる画像分析」は、驚くべきことに、個人レベルでも実験可能な状況になっています。ライブラリを組み合わせた短いAIコードを組んで動作させるクラウドツールがあり、一般的なCCDカメラとノートPCなどで動作させることができる例が公開されています。
(2) その他業務への活用と検討方法
バックオフィス業務では、チャットの自動応答や文書の要約など活用できそうな事項はアイデア次第で多くありそうです。「ChatGPT」や既存のAI活用サービスを利用するだけなら導入は比較的容易でしょう。
一方、特別な処理を期待する場合、一般的なITシステムと異なり、①学習するデータが揃えられるか、②データを分析して想定した動作ができるか試してみる(Proof of Concept、PoC)を行うなど、段階を踏んで導入可否を判断する必要があります。
3.まとめ
述べてきたように、AIの活用範囲は大きく広がっており、少なからず社会を変える可能性があります。導入の敷居は急速に下がっていますし、中小企業の生産性にも大きく影響するかも知れません。その意味でAIは注視すべき分野と考えており、当方でも技術や動向について調べているところです。
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