中小企業におけるIT人材の成長
社会に広くデジタル化が進む一方で、IT人材が不足する状況が続いています。
しかし、「ITに関連する仕事に就いていれさえすれば高給で安定した業務に就ける」訳はなく、知識を身に付け、経験を積んだ優秀な人材こそが求められています。
今回は、IT人材の成長について述べます。
1.IT人材を取り巻く環境
(1)IT人材のニーズ
一言で「IT人材」と言っても、業務システムの設計・開発・運用、情報ネットワークの構築・運用など様々です。情報処理技術で分類すれば、データベース・ネットワーク・セキュリティ・プロマネ・組み込み等に分類され、更に考えればAIやDXと際限がなく広がります。必要なスキルの定義には「ITスキル標準」や「デジタルスキル標準」などがあります。
特定のIT機器ベンダでなければ、企業の情報システム部門で求められる業務は、自社で活用するシステムの構築・運用が主となることが多いと思います。大規模な構築プロジェクトは、基幹システムや社内情報ネットワークなど大よそ10数年に一度のペースで実施されますが、最新のAI活用に代表されるように、急速に進展する技術を迅速に取り入れることが求められるようになったため、”ベンダ任せきり”は通用しなくなってきています。つまり、社内のIT人材如何によって企業の成長に大きく影響する可能性があります。
こうした状況下でも、国内企業のIT人材は”総合職”として採用されることがまだ多いようです。つまり、与えられた業務以外に、IT技術に関する基礎知識の習得や最新の技術知識や経験を常に補充せねばならない事情が無視されがちです。
(2) IT人材の成長機会
一方で、例えば情報システム部門に与えられた工数からすれば、社内システムの運用等で手一杯であり、目まぐるしく進化するIT技術の進展に「それどころではない」かも知れません。しかし、IT技術者が企業に勤める価値の一つは「経験を積み成長すること」であり、技術職でありながら管理業務で忙殺され、システムの企画・開発・構築の経験を積めないのであれば不満が募ります。
「10年に一度の基幹システム再構築の機会に、システム検討・構築を経験させてもらえない」「最新技術の活用で大きな成果が見込まれるのに、経営陣が判断できない」といった事態は、実際によくあることです。特に前者は、経験のない従業員に過度な負荷がかからない配慮も必要ですし、一見、ベンダに任せきりにする方が安全とも思えますが、本当にそうでしょうか。
2. 情報システム人材の行動事例
企業にて活躍するIT技術者が成長してゆくにはどのように行動したら良いでしょうか。
画一的な答えはありませんが、中小企業の事例を紹介します。
(1)情報セキュリティマネジメント導入事例
中小企業のあるメーカで情報システム部門に勤務する若い担当者が、「事業規模に対して情報セキュリティの配慮が不十分である」との危機感を抱き、専門家の相談に来られました。過去にも、類似の相談をされたこともあったそうですが、上司に相談しても理解してもらえなかったようで、今回は「責任を持てないのであれば」と転職まで考えていました。
状況を伺うと相応の問題があることは確かでしたが、「技術に照らした客観的事実」が整理されておらず、対策も十分検討されていませんでした。結果として、それをサポートしつつ、後に経営陣に対し問題提起と解決策の提案をする機会を設けることができ、改善の機会が得られました。
本事例は、専門家の支援を経て前進していますが、事実の整理と対策の検討については明らかに調査不足でした。社内に十分なノウハウが蓄積されていなくとも、担当者自らで知識を身に付け、十分な調査により一定の結論を出すことは可能であり、その努力を怠ってはIT人材としての成長は難しいと考えられます。
(2) 情報ネットワーク再構築事例
全国に展開する中小企業の一つで、社内ネットワーク更新の機会がありました。前回の構築は15年ほど前で回線速度も機器の性能も桁違いですので全面的な見直しが必要でした。事実、ネットワーク機器で性能不足によりシステムダウンが発生していました。例によって、社内に情報システム部門はあるものの、構築ノウハウが蓄積されておらず、担当者は「前回構築者がおりませんので」と仰っていました。
検討の結果、外部ベンダの情報通信サービスを活用して1年近くかけて再構築移行を果たしましたが、設計・構築に関与する貴重な機会であったにも関わらず、担当者はその検討業務に十分な工数をかけられず、また、それが認められなかった優秀な技術者の一人で不満が募り、貴重な人材が欠ける事態が発生しました。
彼の気持ちはとてもよく分かります。意欲あるIT技術者が、15年に一度しかない大きな構築プロジェクトの参画機会を前に、実担当でありながら十分に携わることができないとしたら、他の企業で活躍の機会があれば移ってしまうことは容易に想像できます。
3.まとめ
優秀なIT人材が成長し、全社のDXを実現する体制を整えるのは容易なことではありません。その過程で、経営陣・中間管理職の十分な理解に至らず、返って担当者の業務への意欲が低下してしまうこともあり得ます。つまり、労使ともに一定の覚悟を持って対応する課題となっていると言えるでしょう。
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