ローカル生成AIの可能性

 ここ数ヶ月、生成AIモデルをローカル環境で動作させる環境を構築し、その有効性と活用可能性を検討してきました。今回はローカル生成AIの活用について記します。

デスクトップパソコンでチャットAIのイメージ

1.ローカル生成AI環境の構築

 構築したAI環境は、高性能PCをベースにしています。具体的には、GPUを内蔵したPCを使用し、大容量メモリを搭載したシステムを導入しました。当初は通常の高性能PC(マルチコアCPU、32GBメモリ)で動作させていましたが、試しているうちに不足を感じるようになりましたので、リプレースしました。
 GPUを十分に動作させるためには「CUDA Toolkit」を設定して、ようやく「CPU使用率100%張り付き」から脱却できます。また、実際のGPU使用率はWindows標準のパフォーマンスモニタでは正確に観察できず、コマンドラインから確認することになります。
 生成AIモデルの設定では、様々なモデルを設定できるプラットホームソフトのほか、操作が容易なWebインターフェースも導入し、チャット機能を利用できるようにしました。この環境により、生成AIとの対話を行い、実際にどのように機能するのかをテストすることができます(下図)。もちろん、前回の記事に示したエディタを用いて開発したPythonプログラムから呼び出す形式も可能です。

 このローカル環境では、ChatGPTのような大規模な生成AIモデルの完全な再現は難しいものの、日本語での会話や基本的な生成作業を十分に行うことが可能です。これは、中小企業や個人事業主にとって非常に有益な方法です。なぜなら、AI技術を使う際に最も重要なのは「安全性」と「コスト」です。外部のサービスに依存することなく、自社でAIを運用できることは、その両方の課題を解決する手段となるからです。

2.ローカル環境のメリット

(1)情報漏洩リスクの低減

 生成AIを企業で利用する際に最も大きな懸念となるのが「情報漏洩」です。多くの生成AI基盤サービスは、海外のデータセンターでホスティングされており、データが国外に送信されることが一般的です。この場合、企業が持つ機密情報が国外の法律下で管理されることになり、国内法が適用されるわけではありません。特に中小企業においては、巨大AI企業と機密保持契約を交わすことは現実的ではありません。したがって、企業秘密を生成AIサービスに送信することを許容できない企業は少なくないでしょう。
 これに対して、ローカルAI環境を構築することによって、自社のPCやサーバー内でデータを完結させることが可能になります。データが外部に送信されることがないため、情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。また、ローカル環境で運用する場合、企業独自のセキュリティ対策を施すことができ、データ管理においても社内規定を遵守することが可能です。企業秘密を守るためには、外部に依存することなく、社内で完結できる環境が理想的ではあります。

(2)コストと運用の柔軟性

 ローカルAI環境を構築することのもう一つの大きなメリットは、運用のコスト削減と柔軟性です。外部のAIサービスを利用する場合、月額料金や従量課金制で支払う必要があり、そのコストは累積的に増加する可能性があります。特に、中小企業にとってはAIの利用がコスト負担となることがなることも考えられます。
 一方で、ローカルで生成AIを運用する場合、初期投資が必要ですが、その後のコストは限定的です。また、オープンソースのツールが数多く公開されておりAI環境のカスタマイズが比較的自由に行えるため、必要に応じて最適な運用方法を模索することができます。企業のニーズに合わせて環境を変更することも容易で、運用の柔軟性が大きな強みです。

3.組織としての活用

 経済産業省が提供する「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」では、企業がAI技術を利用する際の契約の枠組みやガイドラインが示されており、その中で、AI導入の初期段階における「PoC(概念検証)」が開発プロセスとして定義されています。
 一般的な業務システムの開発では業務分析からシステム開発に進むのですが、AIでは企画や実現可能性が重要になるためPoCプロセスが追加されていると考えられます。
 つまり、アイデアから実現可能性を迅速かつ柔軟に検証するには社内で作業するのが妥当であり、その方法としてローカルAI環境はとても適しています。なぜなら、情報漏洩のリスクが少なく、リスクを最小限に抑え、コストも抑えることができるからです。
 これにより、PoCの実施を通じて、AI技術をどのように業務に適用するかを自ら検討し、企業独自のAI活用法を見出すことができます。

3.まとめ

 今後、さらに多くの企業がローカル生成AI環境を導入し、業務の効率化や新しい価値創出を目指していくことが期待されます。中小企業も例外ではなく、ローカルAI環境のように迅速かつ柔軟に活用できる体制は重要になってくると考えられます。

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